大切なものは

第 33 話

内部犯は心底こちらをなめていたんだなと改めて思った。
他の連中ならいざ知らず、スザクをこの作戦に加えるなんて。
スザクというカードががこちらにある以上負けはない。
ルルーシュとスザクの二人だと勝率は五分五分と言ったのは、ルルーシュの生存率を含んでの確率であって、スザクに関してだけ言えば作戦の失敗はあっても生存率は100%だった。
枢木スザクはそれほど強力なカードなのだ。
ルルーシュがスザクを贔屓しているからだと思われるかもしれないがそれは違う。黒の騎士団との戦闘において幾度となく状況を覆してきたのは他の誰でもない、スザクだ。敵にスザクがいなければどれほど楽に事を運べたか。どれほどの作戦が成功していたか。コーネリアだってとっくに捕虜にできていた。驚異的な戦術で勝敗を覆す。そんな想定外の戦闘能力を正当に評価しているに過ぎない。
敵の目的はルルーシュの抹殺。
それは確定事項。
では何故スザクをつけたのか?
ひとつは、イレブンであるスザクを一緒に始末したかったから。
もう一つは、スケープゴート。
ルルーシュの腕と目同様、ジュリアスの死をスザクの責任にするか、あるいは犯人に仕立て上げるか。どの道邪魔だからラウンズの地位を剥奪し処刑したいのだろう。
だが、残念ながらそうはいかない。
今回の妨害行為を技術者だけではなく、スザクの部下である二人の騎士も知っている。
報告書にもその旨が記される。
その上で、功績を上げたらどうなるか。
おそらく犯人はそこまでは考えていないだろう。
これだけの妨害をしたのだから、絶対に死ぬと決めつけている。
この状況なら殺し合うと思いこんでいる。
それは、絶望の底から可能性を手繰り寄せ、勝利をもぎ取った事のないモノの発想。上から見下ろし、これだけの条件を揃えれば思い通りになるだろうという机上の空論だけで完結させている幼い思考のなせる技。・・・そう、幼い。この相手は軍人とは思えない。甘すぎるのだ。何もかもが。武器弾薬にまで手をかける執拗さがありながら、やる事がどれもこれも中途半端。
だから。

「よし!これで・・・!!」

スザクは破壊したKMFのボディを遠くに放り投げた。
すでにパイロットは脱出済みのKMFを邪魔だと言わんばかりに破壊し、その上半身を後方に無造作に放り投げたのだ。
その動作に敵のKMFはわずかに距離をあけ、ランスロットを取り囲む形を取った。素早い動きと驚異の攻撃力。接近戦は不利だと判断したのかもしれない。
スザクはふぅと息を吐いた。 ランスロットのエナジーは残りわずか。
敵に囲まれて絶対絶命。
だけどその顔に絶望はなかった。
流れるような動作だから敵は気づいていないが、スザクがKMFのボディを投げた先はロイドたちが待機している場所だった。正確に指定した場所にKMFの破損したボディが大きな音を立てて落ちる。

「急いで!」

科学者と、僅かにエナジーを残しておいたサザーランド1騎が手早く動く。敵KMFの装甲を引き剥がし、むき出しになったエナジーパックを引き抜き、もう1騎のサザーランドに装着する。ほぼ満タンのエナジーがめぐり、KMFは起動した。そしてまた1騎分のボディが飛んでくる。

『それはスザクに!』
「イエス・マイロード!」

動けるようになったもう1騎のサザーランドに騎乗するスザクの部下、シュネーは破損したKMFの装甲を剥がし、エナジーパックを引き抜くと、ランスロットがいる戦場に向かい走りだした。
ランスロットはパックを2個装着できる。だからランスロットは援護のサザーランドに気づき一時後退、サザーランドが援護射撃し相手を牽制している隙に片方のエナジーを外し、敵から奪ったばかりのエナジーを手早く装着した。後数分で尽きそうだったエナジーが半分まで回復し、ほっと一息吐くと同時に戦場へと駆け戻った。
敵の数は多いがそう強くはない。
エナジーの心配がなくなったらランスロットが急加速しあっという間に敵をなぎ倒した。敵パイロットが脱出した後のKMFからシュネーはエナジーを取り出す。 あっという間に築かれるKMFの残骸の山とエナジーパックの山。普通であれば、多勢に無勢な戦闘は負けに繋がるのだが、スザクはものともせず戦い続けた。
戦闘に加われば足を引っ張る事は明白。今必要なのはランスロットを長時間稼働させるエナジーの確保。だからシュネーはエナジーパックの回収を続け、合流したレドが余剰分のエナジーパックを仮の拠点へと運んだ。その合間に残された重火器の回収もしていく。回収される武器弾薬の量に仮拠点の科学者たちは思わず頭を抱えたという。

KMF戦において、脱出装置はパイロットの生存率を格段に向上させる。だが、その反面、KMFという軍事機密の塊を戦場に残す事になる。膨大な戦闘データと、エナジーフィラーと共に。操縦席が排出されているため騎乗する事は出来ないが、ルルーシュから見れば敵に塩を送る行為でしかない。弾薬の詰まった銃火器も、敵の物資になるのだから。黒の騎士団はそれらを回収し、戦場で有効活用していた。
本来ならば、そうさせないために、脱出後自爆する機能が必要だ。だが、それを黒の騎士団がしてしまえば、ブリタニアがまねをする。その後物資が回収できなくなり不利になるのは黒の騎士団だ。だからやらないだけ。
レドが持ってきたエナジーフィラーは、トレーラーに積まれ、エナジーの返還作業が行われていた。これは緊急時、トレーラーのエナジーをKMFのエナジーパックに移動する装置が欲しいと、記憶が戻ってすぐにロイドに打診したところ、いいアイディアだとすぐに設置されたものだ。今はそのエナジーの流れを逆にし、KMFのエナジーパックからトレーラーのエナジーに返還をしている。

「くくく、予想通りの反応だ。スザクが派手に暴れているから、そちらにばかり目が行って、コノエナイツの行動に全く気付いていない」

端末に映る反応に、ルルーシュは満足げに言った。
二人にはエナジーの交換時以外スザクの援護はするなと命じた。
そうすることで、2騎のKMFは敵の視界から、意識から外れる。
ランスロットはそれでなくても目立つ機体だ。
そして、強い。
たった1騎なのだから物量で押せば勝てるはずという思考に囚われれば終わり。
かつての自分もそうだった。
だから負けた。
その敗北を知っているからこそ、敵の思考が手に取るようにわかる。

「キングスレイ卿、トレーラー全台回復しました」

セシルは3台のトレーラー全てのエナジーが回復した事を告げた。

「よし、では作戦を次の段階へ進める」
「イエス・マイロード」

スザクのエナジー補給のサポートは1騎で十分。
敵の戦力は1ヶ所に集中している今がチャンス。
さて、このゲームも終盤だなと、ルルーシュはほくそ笑んだ。

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